クンデラの小説は、いつも音楽が流れているような気がします。映画『存在の耐えられない軽さ』では、ヤナーチェクの音楽がぴったりで、ヤナーチェクの弦楽四重奏曲を聴くと、映画のワンシーンが思い浮かび、胸がキュンと締め付けられます。モラヴィアの生まれであるクンデラとヤナーチェク。世界観が似ているのでしょうか。
クンデラの作品には、音楽のシーンがよく出現します。それはもちろん、音楽的な要素なのですが、小説の構築自体が、まるでひとつの音楽を作り上げているようなのです。たとえば、『笑いと忘却の書』にある『お母さん』という短編小説。夫と、妻と愛人、そして夫の母親の関係性が、それぞれの立場から語られていきます。妻と愛人は正反対の性格であり、また仲の良い友人でもあります。夫妻は結婚という契約に苦しみながらも離れられずにいます。それぞれの人物はそれぞれ絡み合います。夫は、高齢の母親の話から、幼少期に見た母親の友人(それは愛人に似ている)の裸体を通して、性倒錯を引き起こすのです。何だかとても…ポリフォニー。まるでバッハのフーガを聴いているかのようです。
クンデラはピアニストの父親を持ち、自身も作曲を学んだそうですから、合点がいきました。
『お母さん』は最後に、半ば疎ましく思っていた母親に、同居を提案するも断られる…という、最後にチクリとした笑いを提供してくれます。そして笑いはいつも身近にあると、気付かされます。