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J. L. ドゥシーク

ドゥシークとの出会いはプラハの古本屋でした。プラハに行くと、必ず古本屋巡りをして、楽譜を買っていました。楽譜は楽譜屋さんではなく、古本屋で。店員さんに言うと、お店の奥から楽譜の束を持って来てくれます。最初はお目当ての作曲家の名前を伝えると、アルファベット順に並んだ楽譜の山から店員さんが取り出してくれるのですが、だいたい途中から、「勝手に見ていって」と言われて、楽譜漁りが始まります。当時聞いたこともないような作曲家の作品も、とりあえず(安いし)たくさん購入しました。既に持っている作品でも、戦前の版だったり、今はない出版社のものだったりして、誰かの書き込みにロマンを感じて買うこともしばしばありました。

そんな古い楽譜の山に、ドゥシークのソナタ全集が埋もれていました。わたしはドゥシークが、ソナチネ・アルバムでお馴染みのドゥセックということも知らずに、何かの役に立つかも?というだけで買って帰りました。そしてトゥーマ先生に報告すると、先生はとても嬉しそうに、「僕も今取り組んでいるんだよ。レッスンに持っておいで」と言ってくださったのでした。初めて聴いたドゥシークの演奏が、トゥーマ先生のものでなかったら、わたしはこんなにドゥシークに惹かれることはなかったかもしれません。先生のドゥシークは、自由で、幻想的で、刹那的で、即興的な魅力に溢れていました。

「今まさに響きを楽しんでいる」―それがドゥシークだと思っています。あちこちに驚きの仕掛けを施していて(ハイドンと仲良くなったのも納得です)、楽しませてくれる反面、モリモリと盛り込まれた技巧的なパッセージ、終わりそうで終わらないフレーズ、少ししつこく感じるゼクエンツ…(笑)のせいで冗長に感じられることもあるかもしれません。わたしはそれも含めて好きですが…。

2010年に、トゥーマ先生が、チャースラフで開催されたドゥシーク生誕250年記念シンポジウム&マスタークラスに呼んでくださり、ドゥシークの生誕地を初めて訪れました。彼の生家は売店になっていて、プレートが掲げられているのみでしたが、この小さな町の美しい風景、湖や教会は昔と変わっていなくて、作曲家を身近に感じた数日間でした。彼はこの町から、イフラヴァ、クトナー・ホラ、プラハ、そしてオランダやロンドン等のボヘミアの外へ旅立ったのでした。

プラハの古本屋から、こんなに豊かな経験に繋がるなんて、これがネットからのダウンロードではそうならなかったと思うことがあります。楽譜の山から宝物を見つけるワクワク感、誰かの息吹を感じて確かに弾き継がれてきたことを実感できることは、意外と重要なのではないでしょうか。しかし残念ながら、プラハの古本屋は少なくなっていて、わたしのお気に入りだった古本屋もいつの間にか無くなっていました。もしも時間があったら、歩いて調べまわりたいという野望はあります。

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