吉村昭さんの短編『羆』を読む。吉村昭さんといえば、三毛別の羆事件を描いた長編『羆嵐』を読んで震え上がった記憶がありますが、こちらの短編も、まさに息もつかせぬ緊迫感を見事な筆致で描いています。飼っていた羆に愛妻を殺された男が仇討ちに行くのですが、賢い羆との心理戦、身を潜めている羆と対峙する場面は、細かな男の目線、心の動きの描写により、読んでいるこちらも手に汗握ります。
羆というと、最近とある動物写真家さんのYouTubeをよく見ています。わたしのような勇気のない者が、ひょっとしたら一生行くことがないかもしれない知床半島の、豊かな自然と動物たちの営みを見て、心が動かされます。とくに昨今問題になっている羆に関しては、正しく恐れることについて考えさせられます。その写真家さんの素晴らしいところは、対象へのリスペクトを失わないところであり、それが数々の写真に現れているように思います。
北海道には2度演奏しに行ったことがあります。函館とニセコ方面でしたが、同じ道内とは思えないほど印象が違います。ニセコの方は、羆の生活域とわりと近い町だったので、少し緊張しました。
吉村昭さんに話を戻すと、彼の、動物を扱った小説はどれも、動物が懸命に生きている様を描いていて、やはりそこに心惹かれるのだと思います。知床の写真家さんと同じように。